記事2026 年 5 月 24 日by とし
田端信太郎「ワンルームはやめとけ」への、3 軒オーナーからの返事
実業家の田端信太郎さんが、YouTube やインタビューで繰り返し「ワンルームマンション投資はやめておけ」「儲からない」と言っています。私は 3 軒のフルローン区分マンションを持っているので、本来なら反論したい立場のはずです。
けれど、田端さんの議論の 半分は正しい と思っています。儲からないのは事実です。だからまず、その半分には素直に同意するところから書きます。残り半分は ── 田端さんと私で、置かれた前提条件が違う、という話。
田端さんの主張、私も半分同意します
田端さんの「ワンルームはやめとけ」論の柱を、私が公開動画やテキスト記事を通して受け取った範囲で要約すると、概ねこういう輪郭になります(田端さんの発言を一字一句引用したものではなく、私の理解した範囲での要約です)。
- 表面利回りが低く、月次のキャッシュフローは赤字になりがち、という指摘
- 買った瞬間に新築プレミアム + 取引コストで 1〜2 割下がる、という指摘
- 30 年保有しても利益は乏しく、銀行・販売会社・管理会社に有利な構造ではないか、という疑い
- 業者側の販売インセンティブと、買い手との情報非対称が、不利な取引を成立させやすい、という構造批判
- 同じ資金を REIT(不動産投資信託)・株式・自分のスキルへの投資に回したほうが効率がいい、という代替案
このうち、最初の 3 つは、私自身の 3 軒の数字でも、ほぼそのとおりです。3 軒とも家賃 -(ローン+管理費+修繕積立金+固定資産税)で月数万円の持ち出し、月次の損益で見れば赤字。買った直後に売れば数百万円単位で含み損が出ます。短期売却を前提に評価する限り、田端さんの言うとおりです。
4 つ目の構造批判も、否定するつもりはありません。販売会社・銀行・管理会社のいずれも、商品を売る側・貸す側・運営する側として、買い手とは利害の方向が違います。情報量にも差がある。「楽勝で儲かる」というセールスを真に受けて買えば、たいてい買い手が損をする側に立つ、という指摘は妥当だと思います。
だからまず、「儲からない」という結論には、私も同意します。3 軒持っていて、月のキャッシュフローはマイナス、買った瞬間に含み損 ── これは事実関係として隠さずに書いておきたい。利害関係を持つ発信者は、構造として「儲からない」とははっきり言いにくい立場に立たされる ── という事情も大きいのだろうと推察しています。その意味で、はっきり言える人の発信は貴重だとも思っています。
でも、田端さんと私では『前提』が違う
ここからは、残り半分の話。田端さんの議論は、田端さんが置かれている前提の中では筋が通っています。問題は、その前提のいくつかが、ふつうのサラリーマンには当てはまらないことです。
私が拾っている範囲で、両者の前提を並べると、こうなります。簿記の言葉ですが、ここでは PL は月々の損益(その月いくら儲かった/損したか)、BS は死亡時に家族に残る資産 と思って読んでください。
ここで言いたいのは「田端さんが間違っている」ではなく、「田端さんの前提で評価すれば、田端さんの結論で正しい」 ということです。私の前提に立つと、別の結論にも理屈がつく、というだけの話。
元手のないサラリーマンに、田端さんの代替案は届かない
田端さんが「ワンルームの代わりに」と提示する代替案は、私の理解の範囲で並べると、REIT、株式、ボロアパートの現金買い、自分のスキルへの投資 ── あたりです。
このうち、ふつうのサラリーマンに手が届く現実的な代替案は、REIT と株式積立だけです。ボロアパートの現金買いは数百万〜数千万円の自己資金が必要で、サラリーマンが借金で買えば「結局レバレッジ不動産」になります。自分のスキルへの投資は人にもよりますが、副業制限のある勤め先では収益化までの線が描きにくい。
残った REIT と区分マンションを並べると、構造の違いがはっきり見えてきます。下の表は、起点を「自己資金 100 万円」に揃えて比べたものです。区分マンションは諸費用込みで自己資金 100 万円ぴったりで買えるわけではなく、頭金や諸経費の追加自己資金 + 属性・物件特性に応じた審査が前提にある、という前置きの上で読んでください。
(フルローン)
(融資条件次第)
不足分は給与で補填
(※団信加入・告知通過時。
家賃継続は満室時の話)
もちろん 20〜30 倍に近いレバレッジは、「失敗したときの毀損も同じ倍率で効く」 両刃の構造です。空室の長期化・家賃下落・想定外の修繕 ── どれが来ても痛む側に立っている、ということは隠せません。
ただ、区分マンションの場合、返済の大半は入居者の家賃で賄い、不足分(私の場合は月数万円)を給与で補っている、という構造です。給与一本で借金を返すのとは違う設計になっている、という意味では REIT・株式と質が異なります。さらに 団信(団体信用生命保険:ローン契約者が死亡時に残債がゼロになる仕組み)が万一の死亡リスクを引き受けてくれる ── 加入時の告知が通っており免責事由に該当しない限り、自分が死ねば残債はゼロになり、物件が家族に残る。ただし家賃が継続するかどうかは別問題で、立地・需給・空室・滞納に左右されます。この 2 点は、REIT にも株式にも無い構造です。
「サラリーマンの最大の武器は『属性』である(銀行が貸してくれる、というアクセス権)」── これは、田端さんの議論の中には基本的に乗ってこない要素です。田端さんの議論の射程には入っていない、というほうが正確かもしれません。
「買った瞬間に下がる」── 新築プレミアムと取引コストを分ける
田端さんの議論で、ひときわ説得力があるフレーズが「買った瞬間に 1〜2 割下がる」です。これは事実関係としてそのとおりなんですが、内訳を分けて読まないと、議論を読み損ねます。
(新築ワンルームでは物件価格の
1〜3 割と言われる水準も)
登録免許税・不動産取得税・
司法書士報酬・印紙税 等
(合計でおおむね 4〜7%)
① はワンルーム・新築特有の話に近いですが、② は田端さんが推奨するボロアパート・中古一棟・地方の戸建てにも、ほぼ同じ規模でかかります(新築は売主直販で仲介手数料が不要なケースが多く、中古は仲介手数料がかかる、という違いはあります)。一棟物件・中古区分・新築区分・戸建て ── どれを買っても、買った瞬間には、業者の小売マージン(販売価格と流通市場での相対(あいたい)取引価格との差)が剥がれる。これは、ワンルームだけの話ではなく、実物不動産という商品の構造的な話です。
だから「買った瞬間に下がるからワンルームはやめとけ」というのは、正確には「買った瞬間に下がる、というのは実物不動産共通の性質で、加えて新築なら新築プレミアム分が上乗せされる」と言うのが、より輪郭のはっきりした話だと思っています。
ここを混ぜて議論すると、「短期で評価すれば全実物不動産は損」という当たり前の結論に行き着くだけで、20〜35 年保有を前提とする商品の評価軸としては、ピントがずれます。
「儲かるか」と「家族に何を残せるか」は、別の問い
ここまで、田端さんの議論の前提について書いてきました。最後にもう一段、評価軸そのものの話をします。
「儲かるか」を問う議論は、暗黙のうちに 「自分の生涯で、いくらリターンを取り戻せるか」 を聞いています。会計でいう PL の視点で、自分が生きているあいだに損益計算を完結させる前提です。
私が 3 軒を持っている理由は、PL では負けていることを承知のうえで、BS ── 自分が死んだときに家族にいくら渡るか、までを射程に入れたいから、という側面が大きい。
詳しい理屈は別記事に書きました。一行で書けば、こういう違いです。
- 二つの BS── 月次の家計キャッシュフローでは赤字でも、物件 BS の純資産は静かに積み上がる側に立てる。
- 団信 vs 生命保険── 団信は厳密には生命保険ではないけれど、家族に「物件+家賃継続」を残す装置として、サラリーマンが入れる仕組みとしては筋がいい(相続税では、団信弁済後の借入は債務控除の対象外になる、という留保もあります)。
PL で評価すれば田端さんが正しい。BS で評価すれば、結論は逆転する余地が出る。「儲かるか」と「家族に何を残せるか」は、別の問い、というのが私の整理です。
どちらの問いを優先するかは、人それぞれの状況で違って当然です。独身で自己最適化に振るなら田端さんの結論で十分。家族持ちで世代資産形成を考えるなら、私の側の問いの立て方も成り立つ ── そういう住み分けの話だと思っています。
想定される反論
自分の議論にも刺せるところは、素直に並べておきます。
- 「田端さんは家族持ちにも『REIT で十分』と言うはずだ」: そのとおりで、田端さんの議論の射程の中では一貫しています。ただ、REIT には団信に相当する保障がなく、世代を超える資産化のドライバが弱い ── という反論は、私の側からは成り立つ気がしています。
- 20〜35 年保有を前提にしても、立地次第で家賃の継続性は瓦解する: 同意です。「家族に残せる」という前提は、立地選びの規律で握る部分。それを外せば、この議論全体が崩れる。私自身が握れている範囲は限定的で、ここを誤れば 田端さんの結論のほうが結果的に正しかった、ということになります。
- 「20〜35 年保有前提」自体が、出口を読めない領域での賭けの一種: そのとおりです。35 年後の立地・人口動態・建築年数・管理組合機能・建替決議 ── どれも今からは読めません。長期保有は「前提」というより、私の側で抱えている賭けです。短期で評価する田端さんの議論を「ピントがずれる」と書きましたが、私の側の「長期で評価する」も、未来の不確実性を引き受けている、という意味では別種の賭けです。
- 修繕積立金の段階上昇・大規模修繕の一時金・管理組合の機能不全: 区分マンション固有の論点で、本記事では深く触れていません。実際、私の物件でも積立金は購入時より上がっています。「家族に残せる」前提の中に、こうした継続コストが将来どこまで膨らむか、管理組合の運営にどれだけ問題が起きるかは、織り込みきれていない、というのが正直なところです。
- レバレッジは失敗時に倍掛けで効く: そのとおりです。空室の長期化、家賃の継続的な下落、急激な利上げ、サブリースの解除や条件改定 ── どれかが本気で来れば、構造は逆回転します。私自身、そのリスクを引き受けたうえで持っている、という前提しか書けません。
- 副業禁止規定は緩んでいる、株式売買制限も業種次第: 業種・職場によります。私の業種ではまだ強く効いています。また、不動産は副業ではなく資産運用扱いになる規定の会社が多く、ここは別軸の論点として残ります。
- 田端さんの議論は『煽り』ではなく『誠実な助言』ではないか: 私はそう受け取っています。本記事も、田端さんの人物・スタンスを否定する意図はなく、議論の前提の違いを並べているだけです。同じ前提に立てば、田端さんの結論にも私は乗ります。
- 「家族に残す」を最優先するなら、生命保険を厚くするほうが筋がいい: これは大きな反論で、別記事で正面から書きました(団信は生命保険のかわりにならない、と言うべきか)。短く書けば、団信は「現金は出ないが、長期の住居と家賃を残す」、生命保険は「現金は出るが、長期の生活基盤までは支えきれない」── 役割が重なるようでズレている、という整理です。両方を持つほうが安全だ、というのが私の現在のポジションです。
私の整理
- 田端さんの「儲からない」は、PL で評価する限り正しい。私の 3 軒も、その意味では赤字。
- ただし、田端さんと私は、置かれた前提が違う。サラリーマン・副業制限・元手ゼロ・家族あり ── この前提では、田端さんの代替案(REIT・株・ボロ現金買い・スキル投資)は届きにくい。
- レバレッジ × 入居者の家賃で返済の大半を賄う × 団信で死亡時保障 という構造は、サラリーマンの属性(銀行が貸す)でしか組めない仕組み。REIT にも株式にも、この構造は無い。ただし「失敗時の毀損も同じ倍率で効く」両刃の構造でもある。
- 「買った瞬間に下がる」は、新築プレミアムと取引コストを分けて読む。② の取引コストは全不動産共通で、田端さん推奨のボロアパートにも乗る。
- 「儲かるか」と「家族に何を残せるか」は、別の問い。両者の結論が食い違っても、議論として矛盾はしていない。
サラリーマン投資マニア界隈で「儲からない」とはっきり言える発信は希少です。利害関係を持つ発信者は、構造として「儲からない」と言いにくい立場に立たされる ── という事情も大きいのだろうと推察しています。「儲からない」をはっきり言える発信は、それ自体が貴重だとも思います。
このサイトでは、田端さんの議論を否定したいのではなく、別の前提を持って同じ問題を見るときに、何が見えてくるか を並べておきたい、というのが本音です。読み手の方が、自分の前提条件 ── 雇用形態・家族構成・自己資金・健康状態 ── を、田端さんの側と私の側の、どちらに近いところに置くかは、読み手の方の側の判断です。
私自身は、自分の前提では、3 軒を持つ判断は今のところ間違っていないと思っています。儲かったから、ではなく、他案(REIT・生命保険・現金預金・自分のスキル投資)と比べたとき、自分の手元の条件では、これがいちばん納得度の高い選択だった ── というのが正直なところです。
— とし
本記事は、田端信太郎氏が公開動画・公開記事等で繰り返し述べてきた「ワンルームマンション投資はやめておけ」という論旨を、筆者の理解の範囲で要約したうえで論評するものです。一字一句の引用ではありません。氏の人格・事業・発言全体への批判を意図したものではなく、議論の前提条件の差を整理する目的で書いています。誤読・誤引用がある場合は、本記事下部の お問い合わせ よりご指摘いただければ、速やかに訂正・削除に応じます。
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