記事2026 年 5 月 17 日by とし

団信は生命保険のかわりにならない、と言うべきか

「団信(団体信用生命保険:ローン契約者が死亡時に残債がゼロになる仕組み)= 保険料ゼロの 3,000 万円生命保険」というフレーズを、私もこのサイトで使ってきました。家族に何かを残すという意味では大きく外れていません ── ただし、残るのが資産価値ある物件か、お荷物の現物か、は別問題です。 厳密に言えば、団信は生命保険ではありません。生命保険にあって団信に無い機能をいくつも持っている。 一度、その差をぜんぶ開いて並べてから、それでも私が団信を中核に置いている理由を書きます。


「団信 = 生命保険」と言い切れない、8 つの差

まず、生命保険にあって団信に無いものを列挙します。素材として並べているだけで、団信を貶めたいわけではありません。

  1. 現金で出るか: 生命保険は遺族に現金で渡る。団信はローン残債がチャラになるだけで、まとまった現金は入らない
  2. 生命保険料控除: 一般生命保険料控除で年間最大 4 万円(所得税、新制度・2012 年契約以降)。介護医療・個人年金を合わせると合計最大 12 万円まで取れる。団信は金利内蔵なので、ここの控除対象には乗らない
  3. 保障額の自由設計: 生命保険は必要額で契約できる。団信はローン残高ピッタリで、残債が減れば保障も減る
  4. 解約返戻金・貯蓄性: 終身保険には解約返戻金がある。団信はゼロ
  5. 特約の自由度: 生命保険はがん・脳卒中・介護などの特約を自由に組める。団信は 3 大疾病団信などのオプションはあるが、金利上乗せで実質コストが乗る
  6. 完済後の保障継続: 終身保険は生涯続く。団信は完済した瞬間に保障が消滅する
  7. 受取人の自由度: 生命保険は受取人を自由に指定できる。団信は契約者本人のみが被保険者で、銀行が受取人(残債弁済)
  8. 相続税の扱い: 生命保険金には法定相続人 1 人あたり 500 万円の非課税枠がある。一方、団信で消滅したローン残債は相続税の債務控除の対象外(国税庁通達)。つまり「団信で借金が消えたから家族に資産がきれいに残った」場合、相続税の評価は団信が無かった世界より重くなる方向に動きます

8 つも違いがあるなら、「団信 = 生命保険」は雑な要約だと言うほうが正しいと思います。

一番大きいのは「現金で出ない」

8 つのうち、家族の側から見て一番大きいのはこれだと思っています。

団信が発動して残るのは ローンチャラ + 物件 + 家賃収入 です。現金は入りません。 ところが家族が亡くなった直後に必要なのは、葬儀代・当面の生活費・教育費の山 ── どれも「即時の現金」で支払うものばかり。物件を売って現金化しようとしても、買い手探し・査定・契約・引き渡しで最短でも数ヶ月、相場が崩れていれば半年〜1 年。換金性の悪い現物が残るだけでは、当面のキャッシュフロー対策にはなりません。

言い換えると、団信は「中長期の生活基盤」を残す装置であって、「死んだ直後の家族の手元現金」を残す装置ではない。生命保険は逆に、現金は出るけれど中長期の生活基盤までは支えきれない金額にとどまりがち。両者の役割は重なるようでズレている、と言ったほうが正確だと思います。

二番目に大きいのは「完済で役割を終える」

団信はローンに紐づいた保険です。ローンを完済した瞬間に、団信もそこで仕事を終えます。

35 年フルローンで 45 歳のときに買った物件なら、完済は 80 歳。そこから先は、団信は何もしてくれません。物件と家賃は残っていますが、80 代以降に亡くなった場合の 「現金が必要な瞬間の保障」は団信からは出ない

終身保険なら生涯続きます。掛け捨ての定期保険でも、契約期間内なら払う。団信はそのどちらでもなく、「ローンの寿命と一緒に消える」という独特の性質を持っています。家族にとっての保障期間としては、思っているほど長くないかもしれない、ということです。

「がん団信は保険料ゼロ」と言われたとき、計算してみる

ここからは、団信のオプションとしてよく勧められる「がん団信」「3 大疾病団信」の話。「金利+0.1% で加入できますよ」と言われると、ほとんどコストがないように聞こえます。

私もそう聞かされましたが、自分のローンに当てて計算してみると印象は変わりました。

物件価格 3,000 万円、フルローン 35 年、固定金利 1.5%
→ 月返済 約 91,800 円、総返済 約 3,857 万円(利息 約 857 万円)

がん団信付き(金利 +0.1% = 1.6%)
→ 月返済 約 93,300 円、総返済 約 3,920 万円(利息 約 920 万円)

差額 約 63 万円 / 1 軒 / 35 年

1 軒で 63 万円。3 軒持っていれば 3 軒分で 約 189 万円。これは「ほぼタダ」ではなく、立派に保険料を払っている水準です。

一方、民間のがん保険(40 代男性、診断一時金 100 万円、終身)は月 2,000〜3,000 円程度が相場感。35 年で 84〜126 万円。1 軒分の団信(63 万円)と比べれば団信のほうがやや安く、3 軒分(189 万円)なら民間 1 本のほうが安くつく ── という形になります。ただし、これは累積保険料の単純比較に過ぎず、団信は罹患時に「残債数千万円が消える」設計、民間は「一時金 100 万円」設計で、保障の中身は別物です。だから「どちらが安い」は単純には言えなくて、私のケースの試算では、軒数が増えるほど累積コストの面で民間側にも分が出てくる、というところまでです。

「保険料ゼロ」ではなくて、「金利に内蔵されているから見えにくいだけ」と言うのが正確だと思います。

そもそも、サラリーマン大家にがん団信は必要か

ここはもう一段、踏み込んだ話をします。

がん保険の本来の役割は、「働けなくなったときに家計のキャッシュフローが急停止するのを防ぐ」ことです。給与が止まると、住宅ローンも生活費もぜんぶ自分の貯金にぶら下がる。だから一時金や月額給付で穴を埋める ── これがロジック。

ところがサラリーマン大家の場合、投資用ローンの返済の大半は家賃側でまかなえる設計になっています。私の場合、家賃 -(ローン+管理費+修繕積立金+固定資産税)で月数万円の持ち出し、というあたり。本業の給与が止まっても、投資用ローンが翌月に焦げ付く、という構造にはなっていません(ただし、空室・家賃下落・サブリース改定などで家賃が落ちれば、この前提は一発で逆転します)。

だから「がんで働けなくなった瞬間に投資用ローンが詰む」というリスクは、サラリーマン大家では相対的に薄められている、と私は見ています。家賃という別レイヤーが、ある程度クッションになっているからです。

がん団信がやってくれるのは、急停止の回避というよりも 「上振れの効果」 ── ローン残債が消えて、家賃丸取りの状態に切り替わる、というところ。これはこれで価値はありますが、「急停止回避のために必要」というロジックでは説明しきれない種類の保障です。

加えて、がんは以前ほど怖い病気ではなくなった

もう一つ、保険を考えるときに見逃せない変化があります。

昔は「がん = ほぼ死」というイメージが強かったので、がん保険にはドラマチックな保障性が求められました。けれど治療法・検診の進歩で、ここ 30 年で 5 年生存率は大きく改善しています。

  • 全がん 5 年相対生存率は 60% 台後半まで上昇(出典:国立がん研究センター「院内がん登録 2014-2015 年症例」)
  • 部位別では、乳がんは 90% 超、前立腺がんはほぼ 100% 近く、大腸がんも 70% 超。一方、膵臓・胆道などは依然として厳しい部位として残っています
  • 就労継続率も改善。診断後も働き続ける人が増えつつある

部位ごとの差は大きいので、「がんはもう怖くない」と言い切るのは雑です。ただ、平均的には「がん = 即死保障が必要な病気」というフレームは、以前より緩んできているように見えます(私の理解では、です)。

だから、サラリーマン大家にとってのがん団信の必要性は、家賃が返済を支えていることと、医療の進歩で生存率が改善していることの両側から、私のケースでは相対的に下がっているように見えます。「上乗せ 0.1%」の累積コストを払う先として、最優先かどうかは、家族構成や属性によって判断が変わる領域だと思っています。

現実的な設計 ── 団信 + 小型生命保険の二段

ここまでを踏まえて、私の現在の組み方を書いておきます。

  • 団信(無料部分のみ、特約は付けない) → 中長期の住居確保 + 家賃収入を家族に残す
  • 別建ての小型死亡保険(掛け捨て・葬儀代+当面 6 ヶ月の生活費相当) → 即時の現金を残す
  • 民間のがん保険 / 医療保険(必要に応じて) → 治療費・通院費・収入減少分を補填

団信が担うのは「住居の確保 + 長期家賃収入」。別建ての小型生命保険が担うのは「即時の現金」「生命保険料控除」「保障額の自由設計」。 ── つまり、団信に 「無い 7 つ」 を、別の安い保険で個別に埋めにいく、という設計です。

一見、団信ですべてを賄うほうがシンプルですが、上で書いたとおり団信は「現金は出ない / 完済で終わる」という強い制約を持っています。シンプルさで選ぶより、「役割を分解して、それぞれを安く埋める」ほうが、最終的な保障の総量は大きくなる気がしています。

それでも、団信を中核に置く理由

ここまで団信の欠点を並べてきたので、最後に逆側を書きます。

7 つの欠点を抱えながら、それでも私が団信を 家族保障の中核に置いている 理由は 3 つあります。

  1. 「現金」より「家賃」のほうが、家族の生活設計に乗りやすい: 一時金を 3,000 万円もらっても、運用に回すのも、取り崩すのも、家族にとっては難しい。毎月家賃が入ってくる構造のほうが、教育費・生活費のスライドに自然に合う
  2. 賃料収入源としての物件が継続することの落ち着き: これは家族の住まい(自宅)の話ではなく、賃貸経営が継続するという話です。妻が働きに出にくい家庭、子供がまだ学校に通っている家庭で、毎月家賃が入ってくる構造が残るという事実は、現金 3,000 万円とはまた別の意味で家計の支えになる
  3. 金利に内蔵された形で 3,000〜4,000 万円の保障に乗れる: 同等の生命保険を 40 代から終身で組もうとすると、保険料は決して安くない。団信は金利に内蔵されている形なので、特約を付けない無料部分なら、追加で月々の保険料を払わずに保障を取りに行ける(「保険料ゼロ」ではなく「金利として支払い済み」だ、という整理です)

つまり、団信は「完璧な代替品」ではないけれど、サラリーマン大家にとって、現金保障と並べて持つには筋がいい装置、というのが私の整理です。

想定される反論

  • 立地が悪い物件では、団信が消えた後の家賃継続性自体が怪しい: 残るのが「家賃の入らない物件」なら、家族にとっては税負担(固定資産税・管理費)だけが残るマイナス資産になる。「団信を中核に置く」前提は 立地選びの規律 とセットでなければ崩れる
  • 死亡時の物件売却は時間も価格も読みにくい: 急いで現金化したいケースで、相場下落局面に当たると、含み損で投げ売りせざるを得ない。物件を残す前提が、家族にとっての負担になる場合もある
  • がん団信の上振れ効果は、家賃が安定している前提: 5 年生存率が改善したと言っても、長期療養で就労継続が難しいケースは依然ある。空室や家賃下落が同時に起きると、本人の医療費・本業給与・家賃の三方が同時に揺れる
  • 「団信 + 小型生命保険」のハイブリッドは事務手数が増える: 加入・更新・告知の手間が分散する。シンプルさを最重視するなら、団信フル特約のほうが運用負荷は小さい
  • 団信の保障額は残債連動でしか伸びない: 物件価格が上がっても保障額は増えない。インフレ局面ではむしろ「保障額の実質目減り」が起きる。固定額の終身保険にも近い構造的弱点が乗っている

どれも正しい指摘だと思います。団信は便利な装置ですが、私が手で握れる 立地選び借入幅の規律 の 2 つ ── そこに 別建て保障の組み合わせ を補強として乗せて、ようやく実用に耐える設計になる。どれを外しても、団信頼みは看板倒れになり得る。私自身、ここを誤ると一気に逆風になる、という前提で持っています。

私の整理

まとめると、こうなります。

  • 団信は厳密には生命保険ではない。生命保険にあって団信に無いものが 7 つある
  • 特に「現金で出ない」「完済で終わる」は、保険として致命的に大きな差
  • がん団信は「保険料ゼロ」ではなく、累積で 1 軒 70 万円規模の保険料を払っている。民間がん保険と比較しても、必ずしも有利ではない
  • サラリーマン大家は家賃が即死リスクを薄めているので、がん団信の必要性自体が下がる
  • 加えて、がん自体の生存率が大きく改善し、「即死保障が必要な病気」というフレームが古くなっている
  • それでも、団信を「中長期の住居 + 家賃保障」として中核に置く価値はある
  • 欠けている 7 つは、小型の死亡保険・がん保険・医療保険で個別に埋めにいく

このサイトで前から書いている 二つの BS のうち、団信が効くのは事業 BS のほう ── 「死亡時に物件と家賃が家族に引き継がれる」という、家族側の資産形成への接続点として読み直すと、団信の輪郭がはっきりすると思います。

完璧な保険なんてどこにもないので、足りない部分は素直に認めて、別の安い保険で埋めにいく。それが、私のいまの組み方です。

— とし

本記事は個人の家計記録・思考整理であり、特定の保険商品・ローン商品の推奨や勧誘を目的としたものではありません。本文中の保険料・金利・保険料の数字は、執筆時点で一般に流通している水準を元にした概算で、特定条件下の試算です。実際の条件は金融機関・保険会社・契約者の属性によって変わります。具体的な加入判断は必ず約款と最新の見積もりに基づいて、必要に応じて専門家にご相談のうえ行ってください。


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