記事2026 年 5 月 1 日by とし

価格が下がっても、家賃は連動しない

「都内マンション価格、下落の兆し」というニュースが増えました。価格が下がるなら、持っているマンションも危ない。そう読みたくなります。 ただ、収益物件の価格と、ここで言う価格は、思っているほど直結していません。それぞれが、それぞれの周辺相場で別々に決まるからです。


収益物件と居住目的、そもそも値段の決まり方が違う

不動産の価格には、決まり方が複数あります。

居住目的のマンション(実需)は、近隣の似た物件の取引事例(取引事例比較法)や、もう一度建てたらいくらかかるか(原価法)を参考に値段がつきます。背景にあるのは住みたい人の多寡。住みたい人が多ければ価格は上がり、いなければ下がる。シンプルな実需で動く世界です。

一方、投資用の収益物件は、その物件から将来どれくらいの利益が出るかで値段がつきます。これを 収益還元法 と呼びます。家賃を生む箱として評価される、ということです。

同じ建物でも、誰に向けて売るかで使う物差しが変わる。これが、後の話で効いてきます。

収益還元法のしくみ

収益還元法には直接還元法DCF 法(割引キャッシュフロー法) の 2 つがあります。ここでは、個人投資家の区分マンション取引でほぼ前提になる、直接還元法のしくみを書きます。式はざっくりこうです。

価格 ≒ 年間の純収益(家賃収入から経費を引いたもの)
÷ 期待利回り(キャップレート)

ここで大事なのは、家賃も期待利回りも、それぞれの「周辺相場」で決まるということです。

家賃は、その地域・物件タイプの賃料相場で決まります。立地が同じで広さ・築年・間取りが近ければ、家賃のレンジは大きくはずれません。

期待利回りも、その地域・物件タイプの取引利回り相場で決まります。「都心築浅区分なら○%」「郊外築古なら○%」というように、エリアと物件タイプごとに、投資家のあいだで「だいたいこの利回り」という相場感が共有されています。

売り手が値段をつけるときも、まずこの 2 つを見ます。自分の物件の家賃と、周辺の取引利回り相場。売値はだいたい、家賃 ÷ 周辺の期待利回りで決まる。家賃年 100 万円、周辺の利回り相場が 5% なら、売値はおおむね 100 万 ÷ 5% = 2,000 万円。これが収益物件の値段の決まり方です。

そこを外して高く値付けすれば、買い手から「周辺と比べて割高」と判断されて、売れ残ります。だから売値は、自然と周辺の期待利回りに揃うように収斂していきます。

『安く出ている物件』はなぜ、私たちには回ってこないか

そもそも、売値が周辺相場に収斂する一番大きな力は、買い手側の比較行動です。買い手は、ある物件を買うかどうかを決めるとき、必ず周辺の取引利回り相場と比べます。同じ条件で同じ利回りが取れる物件が他にあるなら、わざわざ条件の悪い物件を高値で買う理由はない。この比較が、売値を周辺相場に押し戻す一次的な力です。

売り手側にも「できるだけ高く売りたい」という動機がありますが、上限を決めているのは「高すぎると買い手の比較に通らず売れ残る」という市場の規律。結果として売値は、周辺相場の少し上あたりで決着します。

だから「安く出ている物件」というのは、相続・離婚・相続税対策・破綻処理など、よっぽどの事情があるときだけです。

そしてそういう物件は、私の肌感としては、私たち個人投資家の目に触れる前に、業者ネットワークの上位にいるプロや大口の買い手に流れるケースが多い。表のサイトに出てくる頃には、たいてい普通の値段に戻っています(もちろん、レインズや楽待・スーモ経由で時間をかけて回ってくるケースもあります)。

「この値段で買えればおいしいのに」と思える物件には、その値段で買える順番は私たちにはほぼ回ってこない、という感覚です。これは、私が長く本やネット記事を眺めていて、いつまでも踏み出せなかった理由のひとつでもあります。

つまり、「高すぎる物件は売れ残る」「安すぎる物件は私たちに回ってこない」。この両方が同時に効くから、私たちが目にする物件の売値は、結果として周辺相場の利回りに収斂していく。これが、売値の決まり方のからくりです。

だから、まともな投資物件においしい話はないのです。

金利と期待利回りは、すぐには連動しない

ここで「金利が動けば不動産価格も動く」というよくある混同を、整理しておきます。

政策金利が動けば、確かに変動金利(住宅ローン金利・投資物件ローン金利)はすぐに動きます。住宅を買う人の借入コストにも、変動金利でローンを抱えている投資家(私を含めて)の返済額にも、直接効きます。これらは保有中のキャッシュフローに影響する話です。

けれど、本記事で扱っている収益物件の価格は、これとはまた別の話です。価格は、家賃と「投資家が要求する期待利回り」で決まる、と先に書きました。

ではその期待利回りは金利と連動するのか?教科書的には、長期金利(リスクフリーレート)が高ければ投資家もより高い期待リターンを要求する、と説明されます。けれど実際の取引では、期待利回りは「周辺の取引利回り相場」で決まる以上、政策金利が 0.25% 動いたからといって、明日から周辺の取引利回りが 0.25% 切り上がる、という即時連動はありません。

中期的には、長期金利(10 年国債利回りなど)の水準が、投資家の期待リターンを通じて取引利回り相場にじわじわ効いてくる、と言われます。けれど、これは何ヶ月・何年というスパンで「ゆっくり」起きる動きで、政策金利のヘッドラインと毎月一致するものではありません。

さらに言うと、この教科書的なキャップレート理論が実際にどれくらい効くかは、市場のセグメントによってかなり差があります。

  • J-REIT(機関投資家市場): ほぼリアルタイムで金利に反応します。市場で日々値付けされ、機関投資家が DCF で評価しているので、長期金利が動けば REIT 価格は即日値付けが変わります
  • 一棟 RC・商業ビル(プロ取引): 中期的に効く。プロ投資家は不動産以外の運用先(国債・REIT・社債など)と利回りを比較して投資判断をするので、金利が上がれば不動産にも同等以上の期待利回りを要求するようになります。家賃が同じでも、収益還元評価の分母(期待利回り)が切り上がれば、取引価格は下がる方向に動きます
  • 区分マンション(個人取引): 弱く、ゆっくりとしか効かない。個人投資家は機関投資家ほど他資産(国債・REIT など)と利回り比較をしないため、金利環境への反応が鈍く、実際の売買は周辺相場ベースで動きます。個別物件の取引利回りには、なかなか反映されません

「金利が上がれば不動産価格が下がる」という言説は、主に J-REIT や一棟物件などのプロ市場での話が一般化されたものです。私のような個人投資家の区分マンションは、その理論が直接かつ即時に当てはまる市場ではありません(中長期的には間接的に効きますが、毎月のニュースに反応するような市場ではない)。

だから、ニュースで「都内マンション価格、下落」と見たときに本当に確認すべきは、家賃の周辺相場が動いたのか、取引利回りの周辺相場が動いたのか、あるいはどちらも動いていないのに特定エリアの売買事情で売値だけが動いたのか、です。

家賃には下方硬直性がある(ただし契約存続中の話)

家賃には「下方硬直性」という性質があります。要するに、下がりにくい。ただしこれは、既存契約が存続している間に限った話です。退去後の新規募集は、その時点の周辺相場でリセットされます。ここを混ぜないようにします。

一番大きな理由は、いまの家賃で払い続けてくれている入居者がいることです。マンションの売買価格が下がったとしても、その物件に住んでいる人は、いま払っている家賃を払い続けます。契約存続中の家賃を実質的に支えているのは「いま住んでいる人」であって、「売買している投資家」ではありません。

加えて、法的な硬直性。借地借家法 32 条で、貸主・借主のどちらからも家賃の増減額を請求できる仕組みになっています。ただし合意がなければ最終的には裁判で決着する構造で、特に貸主側からの増額請求は時間とコストが見合わず、実務上ほぼ機能しません。一方で借主側からの減額請求は通る余地があり、退去阻止のために貸主が自発的に下げるケースも実務上はあります。だから既存契約の家賃は、上には動きにくく、下には条件次第で動きうる、という非対称が乗っています。

そして指数で見たときの硬直性。日本の CPI 民営家賃指数は、1990 年代後半以降ほぼ横ばい〜微減で推移してきました。バブル崩壊で都心商業地の地価が大きく下がった 1990 年代前半にも、家賃指数は緩やかにピークアウトしただけで、地価のような大きな下落は起きていません(出典:総務省統計局「消費者物価指数」)。

価格は資産市場の都合で大きく振れる。家賃は実需市場の都合でゆっくりしか動かない。同じ建物で、別の動き方をするわけです。

ただし「実質」で見ると、話は変わる

いまの局面は、これまでと少し違う動きをしています。2022 年以降の累積で見ると、総合 CPI が 10% 前後上がる一方、家賃指数は 2〜3% しか上がっていません。 つまり名目では家賃が安定していても、物価の伸びには追いついていない。実質家賃は目減りしている、ということになります。

ただ、ここで効いてくるのが借入金です。固定金利でローンを組んでいる場合、返済額は名目で固定される。物価が上がる中でも返済額は同じ。実質債務も目減りしていくわけです。

家賃の実質目減りと、債務の実質目減り。両方が同時に起きるので、最終的な差し引きはレバレッジ比率次第です。 私のようにフルローンで持っていると、債務目減りの効きが相対的に大きく、BS 側で見れば借り手有利に寄りやすい構造になります(月次キャッシュフローは運営費を入れるとマイナス傾向で、有利さは BS 側にしか出ません)。

加えて、家賃も中長期では物価に遅れて追随していきます。退去後の新規募集や、契約更新のタイミングで、周辺相場が上がっていれば家賃も切り上がる。短期では実質目減り、長期では名目家賃も追随、という二段構えで効いてきます。

同じ物件でも、2 つの値段になりうる

ここまで、収益物件の価格決定と家賃の動き方を見てきました。最後に、出口戦略に関わるもう一段の構造を書いておきます。同じ物件でも、売り方によって 2 つの値段になりうるのです。

入居者が住んでいる状態で売る場合(オーナーチェンジ)は、買い手は次のオーナーになる投資家です。家賃と周辺の利回り相場で値段が機械的に決まります。これがいわゆる投資物件価格。

一方、退去して空室になっている状態であれば、居住用として売り出すこともできます。買い手は実際にそこに住む人、あるいは住み替えを考えている人。値段は近隣の居住目的物件の取引事例で決まります。

マンション価格が上昇している局面では、居住目的の取引事例価格のほうが、投資物件として収益還元で出る価格よりも高くなることがあります。だから、ちょうど退去のタイミングで居住用として売り出せれば、投資物件として売るより高く売れる可能性がある。これは、長期保有を前提にしつつも、頭の片隅に置いておける出口対策のひとつです。

ただし、現実の出口にはいくつもの注記が乗ります。投資用ローンのまま居住用として売却した場合、買い手は住宅ローンが組みにくい(投資用区分は対象外の銀行が多い)。貸主が自分で住んでから売る選択も、3,000 万円特別控除を取りに行くなら自己居住として相当期間住む必要があり、税務上の「マイホーム」該当性で判定されます。空室化させてから売るには退去合意 or 立退料が必要で、空室期間中の運営費は持ち出し。「2 つの値段」は構造としては成立しますが、間に挟まる実務コストと税務上の条件は、事前に専門家に確認すべき領域です。

ちなみに、いまの「高額マンション下落」のニュースは

ここまでの整理を踏まえると、いま騒がれている「都内高額マンション下落」のニュースも、別の角度で見えてきます。

あれは、投機色の強い高額帯マンションの『希望価格』(売り出し価格、つまり言い値)と、実際に成立する『成約価格』の落差が表面化したもの、と私は理解しています。

投機マネーが入って釣り上げられた希望価格は、本来の需要に対して高すぎる水準でした。それが時間とともに買い手の比較に通らず、希望価格のほうを下げざるをえなくなっている。「下落」というより、もともと無理があった水準が正常化に向かっている、と言ってもいいと思っています。

住みたい人の実需で支えられている中位価格帯のマンションや、家賃インカムで支えられている収益物件は、この調整局面とは別の世界で動いています。

私の整理

出口の選択肢があるのは安心材料ですが、私自身は基本、売らない前提で持っています。日々の判断は、あくまで「保有を続ける」ことを軸にしています。

価格の上下は、売らなければその時点での売却損益としては確定しません。当たり前のことですが、レバレッジをかけた不動産では特に効きます。 評価額が 1 億円から 8,000 万円になっても、売らない限り、口座から 2,000 万円が抜けるわけではありません。── ただし「確定しない」は楽観方向に偏った言い方でもあります。市況との乖離が広がれば、借換えや追加融資の余地、いざというときの売却で逃げる選択肢は実際に狭まる。確定はしていないけれど、ダウンサイドは静かに進む、という側面は併せて引き受けています。

家賃インカムは、価格の上下とは別の軸で、毎月入ってきます。期待利回りが切り上がって価格が下がっても、入居者がいれば家賃は入り続ける。

私が「家族にいくら残せるか」で見るとき、効いてくるのは家賃のほうです。ローンが完済する 30〜35 年後、家賃が老後の生活費として入り続けるかどうか。 途中の価格の上下は、その時点で売る予定がない限り、判断材料にはなりません。

そもそも、「都内マンション価格、下落」というニュースは、ほとんどの場合居住用マンション市場の話です。借り手がいる収益物件は、家賃を担保にした別の値段がついていて、そのニュースとは連動していません。

だから、私が確認するのはいつも家賃のほうです。価格は資産市場の流動性ニュース、家賃はキャッシュフローの実態。同じ建物の話のように見えて、別の話だからです。

想定される反論と、それでも長期インカムを軸にする理由

ここまでの整理に対しては、いくつもの反論が想定できます。素直に並べておきます。

  • 区分マンションも、長期では金利に効かれる: 「金利 → キャップレート」の伝播は弱くゆっくりですが、保有期間を 30 年に伸ばすほど中期効果は累積していきます。長期金利が定常的に上がるレジームに入れば、出口価格の前提は崩れる方向に動きます。
  • 30 年後の建物物理的経年: 築 50〜60 年になる頃には大規模修繕の頻度・規模が増し、修繕積立金が段階的に切り上がる。配管・電気の機能更新も避けられません。「家賃が老後の生活費として入り続けるか」を考えるとき、躯体と設備のメンテナンスコストが家賃を侵食するリスクは織り込んでおく必要があります。
  • 家賃指数と実勢の乖離: CPI 民営家賃指数は既存契約家賃の重みが強く、地方郊外で起きている募集賃料の下落をリアルタイムには映しません。エリアによっては、指数で見るより実勢が弱い可能性があります。
  • 業者ネットワーク論の限界: 「安値はプロに取られる」は概ね正しいものの、すべての安値が裏取引で消えるわけではなく、レインズ経由で時間と価格が動いて回ってくるケースもあります。「指値の余地はゼロ」と言うのは行き過ぎ。
  • 賃料減額の双方向性: 借地借家法 32 条は貸主側からの増額請求が機能しにくいだけでなく、借主側からの減額請求は通る可能性があります。実務上も、退去阻止のために貸主が自発的に下げるケースはある。「家賃は下に動かない」は楽観方向に書きすぎている面があるかもしれません。
  • 高額帯の下落を「投機マネーの正常化」で片付けすぎ: 海外マネー、富裕層の節税ニーズ、新築供給の細さ、円安、税制改正など複数の要因が乗っかった層であり、単純化すると外れます。中位価格帯への波及があるかどうかも、本来はもう少し慎重に見るべき論点です。

どれも、論として正しいと思います。本記事の整理は、絶対に勝てる構造を語っているのではなく、「価格と家賃は別の力で動く」「家賃インカムは下方硬直性に支えられている」「だから長期保有なら家賃軸で見ればよい」という、いくつもの前提が並列で成立した上でだけ成立するものです。30 年後にも家賃が回り続けるかどうかは、修繕積立金の運営健全性、地域需給、自分の与信、雇用環境がどれも極端には壊れないことを引き受けた 賭け の上に乗っています。

それでも私が長期インカムを軸に置いているのは、家賃インカムが 下方硬直性(契約存続中に限る話ではあるけれど)に支えられていると見ているからです。借地借家法 32 条のもとでは、実需で支えられた既存契約の家賃は、価格のように一気には崩れにくい。20〜35 年のスパンで家計の月次キャッシュフローを支える収入源として、サラリーマンの選択肢の中では相対的に時間ベースの粘りがある側、というのが私の見立てです。サイトで前から書いている「打つ手がない中での『ましな選択肢』」の重み付けは、ここに置いています。

だから「区分マンションを長期保有すれば必ず家族に残せる」と一般論で言うつもりはありません。立地を選び、修繕積立金の運営健全性を確認し、変動金利のキャッシュフロー耐性を意識して借入幅を抑え、上記のリスクを引き受ける覚悟まで含めて初めて、ましな選択肢になり得る。前提を選び切れない場合や、ダウンサイドを引き受けきれない場合は、長期保有の判断は変わるはずです。

私自身は、立地を都心側に厚く寄せ、家賃インカムが 30 年回り続けるかどうかに賭けて持ち続けるスタンスを取っています。価格の上下は、その時点で売る予定がない限り判断材料にしない、という方針はそのまま。賭けであることに変わりはない、という自覚を持って動いています。

— とし

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